経営・採算管理
埋めるほど利益は逃げる。「稼働率100%」という錯覚
月曜朝の経営会議。配られた稼働率レポートは、全社平均92%で緑に染まっている。役員はうなずく。先月より3ポイント改善した。資源を遊ばせていない、よく回っている会社の証拠だ。
同じ週、エンジニアの田中は3案件をかけ持ちしている。引き継ぎ資料を書く時間が一分もなく、入りたての若手はその横でSlackのやりとりを眺めているだけだ。新規の引き合いが来ているが、見立てを作る人手がない。レポートの92%は、この全部を「順調」と表示している。
緑のダッシュボードは嘘をついていない。だが、何ひとつ本当のことを語っていない。
「埋まっている」は、「儲かっている」ではない
稼働率という指標が測れるのは、ただ一つ。時間が埋まっているかどうかだけだ。
その埋まった時間がいくらの限界利益を生んでいるかは映らない。誰の時間が埋まっているかも映らない。来期の戦力を作っている時間なのか、ただ消耗しているだけの時間なのかも、区別がつかない。稼働率は、中身を見ずに容れ物の充填率だけを測る指標だ。
ところが多くの経営は、この充填率を上げることを目的にしてしまう。ベンチ(未稼働)が固定費の垂れ流しに見えるからだ。確かに、誰も入っていない時間は費用を生む。だから埋める。70%稼働のメンバーは「遊んでいる」と見なされ、空いた枠に次の案件が差し込まれる。こうして全社は100%へ向かって最適化されていく。
この最適化が、利益を最大化することは、ない。 むしろ100%に近づくほど、採算は静かに削れていく。
100%に近づくほど、採算が削れる4つの理由
埋めれば埋めるほど儲からない。その崩壊の経路は4つある。
1. 高採算案件を取りに行く余白が消える
限界利益が大きい案件は、最初の見立てと設計に時間がかかる。完了形を定義し、編成を組み、単価を詰める。この設計時間はどの案件にも紐づかない「未稼働」に見える。だから100%を目指すと真っ先に削られる。結果、目の前の取りやすい薄い案件で時間が埋まり、本来狙うべき厚い案件を取り逃す。最も採算の良い仕事は、いつも余白からしか生まれない。
2. エースに負荷が集中し、属人化と離職が進む
全社平均92%という数字は、内訳を隠す。実際には数人のエースが110%で、残りが80%だ。稼働を埋める指示は、いちばん任せやすい人に流れ込む。エースは引き継ぎも教育もする暇を奪われ、組織は彼一人に依存していく。その田中が辞めた瞬間、複数案件が同時に傾く。
3. ジュニアを育てる投資枠が消え、グレードミックスが崩れる
若手は、薄い稼働で先輩の横に付き、案件の中で育つ。この「投資枠」は短期的には非効率な未稼働だ。100%最適化はこれを許さない。結果、ジュニアは育たず、いつまでもシニアを高い原価で投入し続けるしかなくなる。今期の稼働率を上げた代償を、来期の悪化したグレードミックスが払う。
4. スコープクリープを吸収する緩衝がなく、隠れ赤字になる
スコープの追加要求は必ず来る。余白があれば交渉し、追加工数を可視化して再見積もりできる。緩衝がゼロなら、断る体力も交渉する時間もなく、無償の残業で飲み込むしかない。稼働率レポートはこの飲み込みを「100%稼働」と記録する。垂れ流された限界利益は、どこにも計上されない。
4つに共通するのは一点だ。稼働率は、削れていく利益を一切表示しないまま、削っている過程を「順調」と緑で塗る。
設計するのは、率ではなく中身
ではどうするか。答えは「稼働率を何%にするか」ではない。問いの立て方そのものを変える。
埋めるべきは時間ではなく、限界利益だ。75〜85%のビリング稼働を、誰の・どの案件の・いくらの粗利で埋めるか。残りの15〜25%を、提案・設計・教育という「来期の利益の仕込み」にどう配分するか。これは事後のレポートを眺めて決められることではない。走り出す前に設計するしかない。
ここが CATCAREERアサインメント の立つ場所だ。原価・稼働・スキル・本人の意向・限界利益を同一画面に置き、アサインを動かすと粗利がどう変わるかをその場で見せる。田中をこの案件から外して若手を半稼働で付けたら、今月の限界利益はいくら下がり、来期の戦力はどれだけ積み上がるか。埋まり具合ではなく、埋め方を設計するための画面だ。
「案件稼働にやや余裕があります。エース稼働を上げるか、若手稼働を上げるか。ストレッチアサインですが、Aに基礎がある若手にB業務も渡してはいかがでしょうか。本人の意向データにも近く、エースが支援することで十分回る見立てです」——AIが返すのは「稼働を埋めろ」ではない。誰に何を渡せば、いまの稼働が来期の戦力に変わるかという一手だ。
稼働率を100%に近づけた瞬間、案件を見立てる時間も、人を育てる時間も、断る体力も消える。利益は、その消えたはずの余白で生まれるはずだった。
稼働時間を設計し、今の利益(採算)と来期の利益(教育)を両取りする。
FAQ
稼働率は高いほうが利益が出るのではないですか?
出るとは限りません。稼働率は時間が埋まっているかしか測らず、その時間がいくらの限界利益を生むかは映しません。100%に近づけるほど高採算案件を取りに行く余白が消え、エースに負荷が集中し、ジュニアを育てる投資枠も失われ、採算はむしろ悪化します。
では稼働率は何%を目指すべきですか?
一律の正解はありませんが、ビリング稼働は75〜85%を目安に、残りを提案・設計・教育の戦略余白として確保する設計が現実的です。重要なのは率の高さではなく、その稼働が生む限界利益と、将来の戦力を作る投資枠を同時に設計することです。
稼働率を上げずに採算を改善するにはどうすればよいですか?
受注前の設計フェーズで、誰をどの案件にどの単価で組むと限界利益が最大化するかを設計することです。原価・稼働・スキル・意向・利益を同一画面で見て、アサインを動かすと限界利益がどう変わるかを走り出す前に確かめます。
稼働率という指標は何を測っているのですか?
時間が埋まっているかどうかだけです。その埋まった時間がいくらの限界利益を生むか、誰の時間が埋まっているか、来期の戦力を作る時間か単に消耗しているだけかは映りません。中身を見ずに、容れ物の充填率だけを測る指標です。
稼働率100%を目指すと何が起きますか?
採算が静かに削れます。高採算案件を取りに行く設計の余白が消え、エースに負荷が集中して属人化と離職が進み、若手を育てる投資枠が失われてグレードミックスが崩れ、スコープ追加を無償残業で飲み込みます。稼働率レポートはこの損失を一切表示せず、削っている過程を「順調」と緑で塗ります。