制作会社の工数実績入力は、綺麗な嘘でできている
制作会社がクリエイターに工数の実績入力を強制しても、集まるのは現実ではない。終業後に記憶をたどって15分単位のマスを埋めた、辻褄合わせの数字だ。時間と成果が比例しないクリエイティブの稼働を、事後の時間で測ろうとすること自体に無理がある。追うべきは、使い終わった時間ではない。案件が走り出す前の、布陣の設計だ。
金曜の夜、デザイナーが工数管理ツールを開く。今週どの案件に何時間使ったかは、もう正確には思い出せない。だいたいこのくらい、と各案件に時間を振り分け、合計が所定の時間になるよう最後のマスを調整する。提出された数字は、合計だけが正しい。中身は、締切に間に合わせるための創作だ。経営はそれを集計し、案件採算を語る。
この記事の要点
- 制作会社のクリエイティブ稼働は、工数の実績入力では測れない。返ってくるのは辻褄を合わせた数字だ。
- クリエイターは時間ではなく成果で動く。同じ1時間が違う価値を生むため、時間の記録は採算の根拠にならない。
- 嘘のデータで採算を判断すると、原価も生産性も誤って読み、打ち手がまとめてずれる。
- 利益が決まるのは、誰をどの案件にどう組むかという受注前の布陣だ。事後の時間入力では採算は1円も動かない。
- 実績入力をやめ、事前のチーム設計で稼働と利益を握る。この設計をアサインメントデザイン™と呼ぶ。
なぜクリエイティブの実績入力は「嘘」になるのか
工数の実績入力は、製造ラインのように時間と成果が比例する仕事でこそ意味を持つ。1時間で部品を10個作る人と20個作る人がいれば、時間あたりの生産性が見える。
だがクリエイティブはそうではない。方向性が降りてくる一瞬と、それを形にする数時間は、同じ時間でも生む価値がまるで違う。手が止まって考えている時間が、実は最も価値を生んでいることもある。時間の長さと成果の大きさが結びつかない仕事で、時間だけを記録しても、採算の手がかりにはならない。
そこに入力の動機が重なる。クリエイターにとって実績入力は、自分の創作を1日後に分単位で再構成する苦行だ。しかも正確に書いたところで、評価が上がるわけでも次の仕事が変わるわけでもない。コストだけがかかり、見返りがない。合理的な人ほど、合計だけ合わせて中身を概算で埋める。
時間と成果が比例しない仕事で時間を測れば、得られるのは精緻な嘘だ。マスはすべて埋まっているのに、現実はどこにも映っていない。
入力に見返りがなければデータが集まらない構造は「入力しろ」では、誰も入力しない。スキル管理に欠けた現場インセンティブに、実績の記録そのものが利益を生まない理由は実績管理は利益を生まない。その入力に説明責任はあるかに書いた。
嘘のデータは、3つの判断を狂わせる
問題は、入力が面倒だということではない。嘘の数字を信じて経営判断を下すと、打ち手がまとめてずれることだ。
- 原価を読み違える。 辻褄合わせの工数で案件原価を計算すれば、儲かっている案件と溶けている案件が、帳簿の上で入れ替わることすらある。
- 生産性を誤って評価する。 早く正確に入力する人が「効率的」に見え、時間を忘れて良いものを作る人が「だらだら働く人」に見える。評価の矢印が逆を向く。
- 改善が空振りする。 嘘のデータを分析して立てた改善策は、存在しない問題を解こうとする。現場はさらに白け、入力はますます形骸化する。
嘘のデータは、無いより悪い。無ければ慎重になるが、あれば人はそれを信じて、間違った方向へ全力で走る。
追うべきは、使った時間ではなく組んだ布陣だ
では、クリエイティブの採算はどこで決まるのか。案件が走り出す前、誰をどの役割でどう組むかを決めた瞬間だ。
どのディレクターに、どのデザイナーを何人、どのフェーズで当てるか。この布陣が固まった時点で、その案件にかかる原価も、出せる品質も、ほぼ決まる。走り出した後にできるのは、決まった布陣の中で消化することだけだ。事後の時間入力は、すでに決まった結果をなぞって記録しているにすぎない。
だから、追う対象を逆にする。使い終わった時間をかき集める代わりに、組む前の布陣を設計する。誰を当てるとこの案件の限界利益はいくらになるか、その編成は無理なく回るか。受注前にそれを見て決めれば、嘘の実績入力に頼らずに、稼働も利益も握れる。
採算は、消化した時間からは見えない。組んだ布陣の時点で、すでに決まっている。
制作・コンサル系で利益を削る配置の型は制作・コンサル会社で案件利益率を下げる配置ミス4類型に整理した。
やめても、困らない
受注前に布陣を組み、その編成で利益が残るかを設計する。この考え方を、CATCAREERは アサインメントデザイン™ と呼ぶ。原価・稼働・スキルを束ね、誰を当てると限界利益がどう動くかを一つの画面で確かめる。過去をかき集めるのではなく、布陣で未来を決める。それを実装した採算設計クラウドが『CATCAREERアサインメント』だ。受注前に採算を作るという考え方は採算設計とは。プロジェクト型組織が受注前に利益を作る新カテゴリにまとめた。
工数の実績入力をやめても、困らない。むしろ、嘘の数字に費やしていた時間と、それを信じて誤る判断が、両方なくなる。
クリエイターに必要なのは、正確に時間を申告することではない。良い仕事ができる布陣に置かれることだ。経営が見るべきものも、使い終わった時間ではなく、その手前の布陣にある。
FAQ
制作会社で工数の実績入力は必要ですか?
厳格なT&M契約や監査が要らないなら、必須ではありません。クリエイティブは時間と成果が比例しないため、実績入力は辻褄を合わせた数字になりやすく、採算の根拠になりません。実績の集計に頼らず、受注前にどの案件に誰をどう組むかを設計するほうが、稼働も採算も正確に握れます。
なぜデザイナーの工数入力は漏れたり不正確になるのですか?
入力に見返りがなく作業コストだけが乗るうえ、クリエイティブは時間と成果が結びつかないからです。終業後に1日の創作を分単位で再構成するのは難しく、正確に書いても評価も次の仕事も変わりません。合理的な人ほど、合計だけ合わせて中身を概算で埋めます。漏れや不正確さは怠慢ではなく構造です。
クリエイティブの稼働管理は何を見ればよいですか?
事後に消化した時間ではなく、受注前の布陣を見ます。どのディレクターに、どのデザイナーを何人、どのフェーズで当てるか。この編成が固まった時点で、案件の原価と出せる品質はほぼ決まります。受注前に編成ごとの限界利益と無理の有無を見れば、実績入力に頼らず稼働を把握できます。
工数の実績入力をやめたら、何で採算を管理するのですか?
受注前のアサイン設計で管理します。布陣を組んだ時点で案件原価と限界利益はほぼ確定するため、編成を変えると採算がどう動くかを受注前に見て判断します。事後の時間集計は決まった結果を記録するだけで、採算そのものは動かしません。採算は消化した時間ではなく、組んだ布陣で決まります。
タイムトラッキングで現場が疲弊しています。どう変えればよいですか?
測れないものを測らせている疲弊です。クリエイティブの価値は時間に比例しないため、時間を記録しても現実は映りません。実績入力を廃止し、受注前の布陣設計に切り替えると、クリエイターは創作に集中でき、経営は編成で採算を握れます。やめても困らず、嘘の数字とそれを信じた誤判断が両方なくなります。
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