人的資本経営とは?意味と進め方をわかりやすく解説

人的資本経営とは、人材を削るべき費用ではなく価値を生む投資ととらえ、その投資を企業価値や利益という成果につなげる経営のことだ。情報開示と混同されやすいが、開示は活動の一部であって目的ではない。本質は、人への支出に「いくら投じていくら返るか」を問い、リターンを設計する点にある。

「人的資本経営」という言葉は、開示義務の文脈で広まった。そのため、報告書の項目を埋める作業と受け取られがちだ。だが定義に立ち返れば、開示は結果を外へ見せる窓にすぎない。投資を成果に変えるのは、その手前にある経営の中身である。

この記事の要点

  • 人的資本経営とは、人材を費用ではなく投資ととらえ、その投資を成果につなげる経営である。
  • 開示は人的資本経営の一部であって目的ではない。報告項目を埋めても投資が成果に変わるわけではない。
  • 従来の人材管理との違いは問いにある。前者は「いくらで管理するか」、人的資本経営は「いくら投じていくら返るか」。
  • 同じ企業でも、開示対応で終わるか成果につなげるかで結果は分岐する。差は投資の出口を設計しているかだ。
  • 人材投資の最終的な出口は案件への配置と採算であり、ここを設計する考え方を採算設計と呼ぶ。

人的資本経営の定義をわかりやすく言うと

最短で言えば、人的資本経営とは、人材を投資の対象として扱い、その投資の成果を経営として追う考え方である。

従来、人への支出はコストだった。人件費・研修費・採用費は、損益計算書の上では減らすほど利益が増える費目だ。だから景気が傾けば真っ先に削られた。この見方では、人は「いくらで回せるか」を測る対象になる。

人的資本経営は、この見方を逆にする。人は価値を生む資本であり、支出はその資本を育てる投資だ、ととらえる。設備投資にリターンを問うように、人材投資にもリターンを問う。研修に投じた費用が成果として返るか、配置を変えて成果が伸びるか。問いが「コスト」から「投資対効果」へ移る。

人的資本経営とは、人材を費用ではなく投資ととらえ、その投資を成果につなげる経営である。

なぜこの転換が今になって重要なのか。事業価値の源泉が、設備や在庫から人の能力へ移ったからだ。とくにプロジェクト型のビジネスでは、利益を生むのは機械ではなく、人の判断とスキルの組み合わせである。価値の源泉である人を費用として痩せさせれば、利益の源泉そのものが細る。

人的資本経営と従来の人材管理は何が違うのか

言葉は似ているが、人的資本経営と従来の人材管理(人事管理)は、目的も対象も指標も違う。同じ「人を扱う活動」でも、向いている方向が逆だ。

観点従来の人材管理(人事管理)人的資本経営
人の捉え方管理すべき費用(コスト)価値を生む投資(資本)
目的人件費を抑え労務を滞りなく回す人材投資を成果につなげる
中心の問いいくらで管理できるかいくら投じていくら返るか
主な指標人件費率・離職率・労務の適正投資対効果・スキルの蓄積・配置の成果
ゴールコストの最適化企業価値と利益の向上

同じ研修費でも、人材管理では削減の対象に、人的資本経営では回収すべき投資になる。見ている費目は同じで、問いが違う。

ここで注意したいのは、人材管理が劣っているという話ではないことだ。労務を滞りなく回す管理は事業の土台として要る。違うのは射程だ。管理は支出を抑える方向に働き、経営は支出を成果に変える方向に働く。タレントマネジメントの道具も、変化の遅い組織では機能するが、案件が動き続ける組織では前提が崩れる。その構造はタレントマネジメントがプロジェクト組織に利益を生まない理由に整理した。

人的資本経営は「開示」とは別物だ

混同が最も多いのが、人的資本経営と人的資本開示の関係だ。

人的資本開示は、人材に関する情報を有価証券報告書などで外部に説明する活動である。人材育成方針、社内環境整備、多様性の状況といった項目を定められた形で示す。これは制度として求められる、れっきとした実務だ。

だが開示は、人的資本経営そのものではない。開示は経営の結果を見せる窓であって、窓を磨いても部屋の中身は変わらない。報告書の項目をすべて埋めても、人材投資が成果に変わるわけではない。順序は、経営が先で開示が後だ。経営の中身がないまま開示だけ整えれば、見栄えのよい報告書と痩せた現場が同居する。

開示項目を埋めることと、人材投資を成果につなげることは、別の作業だ。前者は説明であり、後者は経営である。

開示対応で終わる企業と、成果につなげる企業の分岐

同じく人的資本経営に取り組んでも、結果は二手に分かれる。分岐点は、人材投資に「出口」を設計しているかどうかだ。

開示対応で終わる企業は、投資を入口で測る。研修にいくら使った、何人が受講した、エンゲージメントスコアが何点。数字は集まるが、それが事業の成果にどうつながったかは追わない。投資と成果の間が、つながっていない。

成果につなげる企業は、投資の出口まで設計する。研修で伸びたスキルが、次にどの案件で使われ、いくらの利益を生んだか。育成・配置・採算が一本の線でつながっている。投資が成果に変わる経路を、最初から描いている。

この分岐は、現場のデータが生きているかにも表れる。出口を設計していない企業では、スキル情報は評価のための入力に終わり、入力した本人に見返りがないため古びていく。なぜ義務化やリマインドでは集まらないのかは「入力しろ」では、誰も入力しない。スキル管理に欠けた現場インセンティブに書いた。データが死ねば、投資の出口を測る土台そのものが崩れる。

人的資本経営の進め方

人的資本経営を開示対応で終わらせず成果につなげるには、投資から成果までを一本の線にする。進め方は4ステップに整理できる。

  1. 人への支出を投資として棚卸しする。 研修費・採用費・人件費を、削る費用ではなく回収を問う投資として並べ直す。どの投資に、何のリターンを期待するかを言語化する。
  2. 投資の出口を「配置と採算」に定義する。 育成や採用の成果を、最終的に「どの案件にどう配置され、いくらの利益を生んだか」で測ると決める。出口を決めなければ、投資は入口の数字で止まる。
  3. スキルと意向のデータを最新に保つ。 誰が何をでき、何を伸ばしたいか。出口で配置を判断する土台になるこのデータを、評価直前だけでなく日々更新される状態にする。
  4. 受注前に、配置で採算を設計する。 蓄積したスキルと意向をもとに、案件ごとに誰をどう組めば利益が残るかを、走り出す前に設計する。投資が利益に変わる最後の一歩はここにある。

人的資本経営の進め方は、開示項目を埋める順番ではない。投資を、配置と採算という出口まで通す順番だ。

人的資本経営の出口は、配置と採算にある

人材投資を成果につなげる、と言うとき、その「成果」が何を指すかが曖昧なまま終わりやすい。エンゲージメントの向上か、離職率の低下か。それらは中間指標だ。事業としての最終的な出口は、人材が案件に配置され、利益を生むことにある。

育てたスキルも、把握した意向も、案件への配置を通らなければ利益にはならない。どの人材をどの案件に、どのグレードで組むか。そこで限界利益が決まる。人的資本経営の投資対効果は、最後はこの配置の質に集約される。投資から利益までの経路を一本につなぐ考え方は人的資本経営を現金に変える「人材配置」と採算設計に、投資のリターンをどう測るかは人的資本ROIとは何か。投資対効果を成果へ接続するに展開した。

人材投資が配置を通じて利益に変わる経路を、受注前に設計する。この受注前の意思決定をまとめて行う考え方が、採算設計だ。

採算設計とは、人材という資本を、どの案件にどう配置すれば利益が残るかを、走り出す前に設計する考え方である。

採算設計を実務に落とす手法を、CATCAREERは アサインメントデザイン™ と呼ぶ。スキルと意向を最新に保ち、案件の体制と限界利益を一つの画面で組み立てる。その手法を実装した採算設計クラウドが『CATCAREERアサインメント』だ。カテゴリとしての採算設計の定義は採算設計とは。プロジェクト型組織が受注前に利益を作る新カテゴリにまとめた。

人的資本経営は、開示で完結する報告活動ではない。人への投資を、配置と採算という出口まで設計して初めて、成果につながる経営になる。

FAQ

人的資本経営とは何ですか?

人的資本経営とは、人材を削るべき費用ではなく価値を生む投資ととらえ、その投資を企業価値や利益という成果につなげる経営です。研修・採用・配置といった人への支出を、リターンを問う投資として扱う点が従来の人材管理と異なります。開示はその一部であって目的ではありません。

人的資本経営と人的資本開示は何が違いますか?

人的資本開示は、人材に関する情報を有価証券報告書などで外部に説明する活動です。人的資本経営は、人材投資を成果につなげる経営そのものを指します。開示は経営の結果を見せる窓であり、開示の項目を埋めただけでは投資が成果に変わるわけではありません。順序は経営が先、開示は後です。

なぜ今、人的資本経営が重要なのですか?

事業価値の源泉が設備や在庫から人の能力へ移ったからです。プロジェクト型のビジネスでは、利益を生むのは機械ではなく人の判断とスキルの組み合わせです。人材への支出を費用として削る発想では、価値の源泉そのものを痩せさせます。だから人を投資対象として扱う経営が問われています。

人的資本経営は従来の人材管理と何が違いますか?

目的と問いが違います。従来の人材管理は人件費を抑え労務を滞りなく回すことが目的で、問いは「いくらで管理できるか」です。人的資本経営は人材投資を成果につなげることが目的で、問いは「いくら投じていくら返るか」です。同じ研修費でも、片方では削減対象、もう片方では回収すべき投資になります。

人的資本経営を成果につなげるにはどうすればよいですか?

開示項目を埋める作業で止めず、人材投資の出口を案件への配置と採算に接続することです。スキルや意向のデータを最新に保ち、どの人材をどの案件に置くと利益が出るかを受注前に設計する。投資が配置を通じて限界利益に変わって初めて、人的資本経営は成果につながります。

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