中堅SIerにPPMが必要な理由。赤字案件を後から知る構造を変える
中堅SIerにPPMが必要なのは、案件が増えると1案件ごとのプロジェクト管理では全社の採算が見えなくなるからだ。だが赤字案件の多くは、途中で発生したのではない。受注の時点ですでに赤字で、見えていなかっただけだ。
PPM(プロジェクトポートフォリオマネジメント)は、案件を横断して採算と資源配分を捉える枠組みである。概念そのものはプロジェクトポートフォリオマネジメントとは?採算設計の視点で解説に整理した。導入の目的を「案件の見える化」に置くと、見えるのは事後の結果だけになる。中堅SIerで赤字が後から発覚する構造を先に崩さないと、PPMは赤字を確認する装置にしかならない。
この記事の要点
- 中堅SIerにPPMが要るのは、案件数が増えて1案件単位の管理では全社採算が読めなくなるためだ。
- 赤字案件の多くは進行中に発生したのではなく、受注の時点で赤字だった。見えていなかっただけだ。
- 見えなくする構造は3つ。多重下請けによる単価圧縮・人月単価と稼働率への依存・原価の事後集計。
- 事後集計型のPPMは赤字を確認できても止められない。利益は受注前にほぼ確定するからだ。
- 改善は、PPMの可視化タイミングを受注後から受注前へ前倒しすること。この受注前の設計を採算設計と呼ぶ。
なぜ中堅SIerでPPMが必要になるのか
案件が数件のうちは、PPMという枠組みは要らない。経営者が全案件の中身を頭に入れていられるからだ。誰が何に入っていて、どの案件が薄利かを、勘で把握できる。
案件数が数十件を超えると、この勘が効かなくなる。1案件ごとのプロジェクト管理は各PMが回しているが、案件群を横断して「どの案件を受け、どこに人を配り、全体でいくら残るか」を見る視点が、誰の担当でもなくなる。営業は受注金額を追い、各PMは自分の案件の完遂を追う。案件と案件のあいだ、つまり全体の採算が無所属になる。
PPMは、この無所属になった全体採算を引き受ける枠組みだ。1案件の中を見るプロジェクト管理に対し、PPMは案件群の上に立って資源配分と採算を見る。中堅SIerで案件が増えるほど、ここの欠落が赤字を溜める。PPMツールに何を求めるべきかはPPM SaaSとは?中堅SI・受託開発に必要な機能と選び方に書いた。
だが多くのPPM導入は、全体採算を「見える化」するところで止まる。見えるのは、すでに起きた結果だけだ。
案件全体の採算が誰の担当でもなくなる構造そのものは炎上ゼロでも利益は消える。「隠れ失敗プロジェクト」の正体に詳しい。本記事は、その採算がなぜ中堅SIerで特に見えにくいかに絞る。
赤字案件はいつ赤字になるのか
「赤字案件が後から見つかる」という言い方には、誤解が含まれている。後から赤字になったのではない。受注した時点で赤字が決まっていて、それが完了後の集計まで見えなかっただけだ。
案件の原価構造は、誰を・何人・どのグレードで・何カ月当てるかという編成が決まった瞬間にほぼ確定する。受注後にPMがどれだけ管理を精緻化しても、動かせる余地はわずかしかない。利益が残るかどうかの分岐点は、案件が走り出す前にある。
中堅SIerでは、この分岐点が見えにくい。理由は3つの構造が重なるからだ。
| 見えなくする構造 | 何が起きているか | 放置すると |
|---|---|---|
| ①多重下請け | 上位ベンダーから降りた案件は階層を下るたびに単価が削られ、受注時に残る限界利益が薄い | 階層が深い案件ほど赤字に近づくのに、稼働は埋まるため気づかない |
| ②人月単価・稼働率依存 | 管理の主軸が人月単価と稼働率で、案件ごとの限界利益を受注前に見ていない | 稼働率は高いのに利益率が下がる。埋まっている時間が薄利でも検知できない |
| ③原価の事後集計 | 原価が確定するのは案件完了後で、採算は決算でまとめて分かる | 赤字と分かるのは終わった後。次の似た案件も同じ条件で受け続ける |
3つに共通するのは、採算が見えるタイミングが、利益を動かせるタイミングより後ろにあることだ。
階層ごとに単価が削られる多重下請けの中で限界利益をどう守るか、人月単価と稼働率を主軸にした要員管理をどう組み替えるかはSIerの要員管理を再設計する。人月モデルから限界利益へに整理した。本記事はその手前、なぜ赤字が見えないかの診断に立つ。
なぜ事後集計のPPMでは赤字は止まらないのか
PPMを入れても採算が改善しない、という声は少なくない。原因は、PPMの可視化が事後集計のままだからだ。
確定した原価と売上を案件横断で集計し、ダッシュボードに並べる。どの案件が薄利かは一覧で分かる。だが分かるのは、その案件がすでに完了したか、後戻りできない段階まで進んだ後だ。赤字は表示されるが、止められない。
これは基幹システムでも同じ構造になる。ZACやReformaなどのERP/PSAは、確定したデータの統制では完成度が高いが、利益が決まる受注前のシミュレーションは設計思想の外にある。基幹システムを磨いても、利益が決まる前段には届かない。詳しくはZAC・Reformaがあっても、なぜ採算は合わないのかに書いた。
事後集計のPPMは、赤字を確認する装置にはなるが、赤字を止める装置にはならない。止めるには、可視化を受注前へ前倒しするしかない。
PPMの可視化を受注後から受注前へ移す
中堅SIerが本当に必要としているのは、案件横断で採算を見る枠組みを、受注後の実績ではなく受注前の判断に使うことだ。
下の3層は、同じ「採算を見る」でも立つ時間軸が違う。どこに可視化を置くかで、PPMが赤字を確認する装置になるか、赤字を止める装置になるかが分かれる。
| 可視化を置く位置 | 見えるもの | 利益への効き方 |
|---|---|---|
| 完了後(事後集計) | 確定した案件別の原価・売上・粗利 | なし。記録であり、止められない |
| 受注後(進行管理) | 進行中案件の予実・稼働 | 中。逸脱は補正できるが構造は動かない |
| 受注前(採算設計) | 体制案ごとの限界利益、断る・受ける・条件交渉の判断 | 大。利益が動かせる唯一の時点 |
事後と受注後の可視化は捨てなくていい。決算と進行管理にそれぞれ要る。足りないのは一番上、受注前で案件ごとの限界利益と編成を設計する層だ。中堅SIerで赤字が後から発覚するのは、この層が空白だからにほかならない。
PPMが本来解きたかったのは、案件群の全体採算を最適化することだ。その全体採算は、受注前にどの案件をどう組むかでほぼ決まっている。
受注前に案件ごとの限界利益と体制を組み立てる考え方を、採算設計と呼ぶ。CATCAREERはこれを アサインメントデザイン™ という手法で実務に落とす。原価・稼働・スキル・意向を組織横断で統合し、アサインを変えると限界利益がその場で更新される。採算データは経営者と管理者のみが見て、現場には開かない。この手法を実装した採算設計クラウドが『CATCAREERアサインメント』だ。採算設計の定義と他カテゴリとの違いは採算設計とは。プロジェクト型組織が受注前に利益を作る新カテゴリにまとめた。
中堅SIerにPPMが必要だという結論は正しい。ただし、それを赤字の確認に使うか、赤字が決まる前の設計に使うかで、得られるものは変わる。
FAQ
中堅SIerにPPMが必要なのはなぜですか?
案件数が増えると、案件単位のプロジェクト管理だけでは全社の採算が見えなくなるからです。中堅SIerは多重下請け・人月単価依存・事後集計という構造を抱えやすく、個々の案件は順調に見えても全体では赤字案件が混ざります。PPM(プロジェクトポートフォリオマネジメント)は案件を横断して採算と資源配分を捉える枠組みで、どの案件にどう人を当てるかを全体最適で判断するために必要になります。
中堅SIerで赤字案件が後から発覚するのはなぜですか?
原価が確定するのが案件完了後で、採算が事後集計でしか分からないからです。多重下請けで単価が階層ごとに削られ、人月単価と稼働率を主軸に管理していると、案件の限界利益は受注時点で見えません。炎上せず納期も守られた案件でも利益がほとんど残らないことがあり、その損失は決算の営業利益率に溶けて個別には見えなくなります。
中堅ITベンダーのプロジェクト管理ツールとPPMは何が違いますか?
プロジェクト管理ツールは1案件の進捗・タスク・スケジュールを管理し、案件をどう進めるかを扱います。PPMは複数案件を横断し、どの案件を受け、どこに資源を配り、全体の採算をどう最適化するかを扱います。前者は1案件の中、後者は案件群の上に立つ視点です。中堅SIerで案件が増えるほど、後者の欠落が赤字の温床になります。
PPMを入れれば中堅SIerの採算は改善しますか?
採算を可視化する範囲によります。事後の実績を集計するだけのPPM運用では、赤字は見えても出る前には止められません。利益は誰をどの案件にどう配置するかが決まる受注前にほぼ確定するため、PPMを受注前の採算判断まで広げて初めて改善に効きます。可視化のタイミングを受注後から受注前へ前倒しすることが鍵です。
PPMとSIerの採算管理・採算設計はどう関係しますか?
PPMは案件横断で採算と資源を捉える枠組み、SIer採算管理は案件ごとの原価と利益を管理する実務、採算設計は利益が決まる受注前に案件ごとの限界利益と編成を設計する考え方です。従来のPPMと採算管理は受注後の実績に立ちますが、利益が動かせるのは受注前です。採算設計は、PPMが本来解きたかった全体採算の問題を、受注前へ移して解く視点になります。
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