PPM SaaSとは?中堅SI・受託開発に必要な機能と選び方
PPM SaaS(プロジェクトポートフォリオ管理ツール)とは、社内の複数案件を一つのまとまりとして横断的に可視化し、リソース配分・採算判断・優先順位づけを支援するクラウドサービスである。単一案件を管理するプロジェクト管理ツールと違い、扱う単位は案件の集合だ。
中堅SI・受託開発でPPM SaaSを検討するとき、最初に決めるのは製品名ではなく、自社が解きたい問題がどの層にあるかだ。PPMの本質は案件一覧の管理ではなく、限られた経営資源をどの案件に配ると会社全体の採算が最大になるかという配分の最適化にある。ここを取り違えると、可視化はきれいになっても利益は変わらない。
この記事の要点
- PPM SaaSは複数案件を横断して扱うツールで、1案件を管理するプロジェクト管理ツールとは扱う単位が違う。
- PPMの機能は案件可視化・リソース配分・採算判断・ポートフォリオ意思決定の4層に分かれ、製品ごとに対応の厚みが違う。
- 多くのPPMツールは可視化とリソース配分までで、案件採算で配分を判断する層が薄い。
- 中堅SI・受託で利益を残すには、可視化より採算判断とポートフォリオ意思決定の層を重視する。
- PPMが本来支えるべきは、受注前にどの案件をどう受けるかを決める採算設計の意思決定だ。
PPM SaaSとは何か。プロジェクト管理ツールとの違い
PPMは Project Portfolio Management の略で、複数のプロジェクトを一つのポートフォリオ(投資先の集合)として扱う考え方だ。PPM SaaSは、それをクラウド上で実装したツールを指す。
混同されやすいのがプロジェクト管理ツールとの違いだ。プロジェクト管理ツールは、1つの案件の中でタスク・進捗・スケジュールを管理する。担当者の割り当て、ガントチャート、課題管理。扱うのは案件の内側だ。
PPMツールが扱うのは案件の外側、つまり案件と案件のあいだである。今、社内に走っている案件と提案中の案件をすべて並べ、どの案件にどれだけの人材を配るか、どの案件を優先しどの案件を見送るかを判断する。プロジェクト管理が現場の運用なら、PPMは経営の資源配分だ。
プロジェクト管理ツールは1案件の中を最適化する。PPMツールは案件の集合に対する経営資源の配り方を最適化する。
概念としてのPPMの定義は、兄弟記事のプロジェクトポートフォリオマネジメントとは?採算設計の視点で解説に整理した。本記事はツール選びに焦点を絞る。
なぜPPM SaaSは「案件一覧の可視化」で止まりがちなのか
PPMツールの導入で最初に手に入るのは、全案件の一覧だ。どの案件が走っていて、誰がどこに入っていて、いつ空くか。これまでExcelと記憶に散らばっていた情報が一枚にまとまる。この時点で「見えるようになった」という満足が生まれる。
だが可視化はゴールではない。一覧を眺めても、どの案件に人を寄せれば会社の採算が上がるかは出てこない。可視化が答えるのは「今どうなっているか」で、PPMが本来問うべき「どう配るべきか」ではない。
中堅SI・受託開発で起きがちなのは、可視化までで導入が完了したと見なされ、肝心の配分判断は相変わらず勘で行われる状態だ。画面はきれいになったが、赤字案件を後から知る構造は変わらない。赤字を粗利だけで追っても遅い理由は赤字案件を可視化する方法。粗利を見るだけでは遅い理由に書いた。
PPM SaaSの機能を4層で分ける
PPM SaaSの機能は、解く問題の深さで4つの層に分けられる。下に行くほど経営の意思決定に近づく。製品ごとに、どの層までを厚く実装しているかが違う。
| 層 | 解く問題 | 中堅SI・受託に要るか | 帰結(揃わないと何が起きるか) |
|---|---|---|---|
| ①案件可視化 | 全案件・稼働・空きを一枚で見る | 要る(最低条件) | 情報が散在し、配分判断が属人化する |
| ②リソース配分 | 人材を案件間で過不足なく配る | 要る | 過負荷と空きが偏り、稼働が乱れる |
| ③採算判断 | 案件ごとの限界利益で配分を選ぶ | 最重要 | 稼働は埋まるが薄利案件で利益が残らない |
| ④ポートフォリオ意思決定 | どの案件を優先し、どれを見送るか | 中堅以上で要る | 全案件を等しく抱え、エースが薄利案件で埋まる |
①と②は多くのPPMツールが対応する。だが③採算判断と④ポートフォリオ意思決定の層が薄い製品は多い。稼働率や空き工数は出せても、その配分が会社の限界利益をいくら生むかまでは映さないからだ。
可視化と配分だけのPPMツールは、案件を見やすく並べ替えるが、どの案件が利益を残すかは教えてくれない。
中堅SIerが赤字案件を後から知る構造そのものを変える視点は中堅SIerにPPMが必要な理由。赤字案件を後から知る構造を変えるに書いた。
中堅SI・受託開発でのPPM SaaS選びの順序
製品比較に入る前に、自社が4層のどこで詰まっているかを決める。詰まっている層に効かないツールを入れても、課題は動かない。選定は次の順序で進める。
- 現状の詰まりがどの層かを特定する。 情報が散在しているなら①、配分が偏っているなら②、稼働は埋まるのに利益が残らないなら③、案件を選べず全部抱えているなら④だ。
- その層に効く機能を持つ製品に絞る。 ①②止まりの可視化ツールと、③④まで踏み込む採算寄りのツールは、見た目が似ていても解く問題が違う。
- 時間軸を確認する。 受注後の案件を整えるツールか、受注前の案件選定まで扱うツールか。利益が決まるのは受注前なので、ここが選定の分岐になる。
- 採算データの扱いを確認する。 限界利益を案件ごとに見られるか、その数字を現場まで開示するか経営層に限るか。配分判断を経営の意思決定として使うなら、採算は経営側の指標として持つ設計が要る。
ツール選びの本当の分岐が「コストを管理する側か、利益を設計する側か」にある点はコスト管理型か、利益創出型か。法人向けSaaS選びの分かれ道に詳しく書いた。受注後のリソース配分を担うカテゴリの整理はプロジェクトリソース管理とは。工数管理・タレマネとの違いを参照してほしい。
PPMが本来解きたかったのは、受注前の採算設計だ
PPMの目的を一段引き上げると、案件の管理ではない。限られた人材という経営資源を、どの案件に配れば会社全体の採算が最大になるかという配分の最適化だ。これはポートフォリオ理論が投資先の組み合わせを最適化するのと同じ発想である。
そして配分の最適化が最も効くのは、案件がまだ社内に入る前——受注を決めるその一瞬だ。どの案件を、いくらで、どんな体制で受けるか。ここで案件の限界利益はほぼ確定し、ポートフォリオ全体の採算もほぼ決まる。受注後にいくら配分を整えても、安すぎる単価で受けた案件は黒字に戻らない。
PPM SaaSが本来支えるべきは、受注済み案件の並べ替えではなく、受注前にどの案件をどう受けるかを選ぶ意思決定である。
この受注前の意思決定——案件ごとの限界利益と体制を、走り出す前に設計することを、CATCAREERは採算設計と呼ぶ。それを実務に落とす手法が アサインメントデザイン™ だ。原価・稼働・スキル・意向を組織横断で統合し、アサインを変えると限界利益がリアルタイムに更新される。その手法を実装した採算設計クラウドが『CATCAREERアサインメント』である。採算設計というカテゴリの定義は採算設計とは。プロジェクト型組織が受注前に利益を作る新カテゴリに書いた。
PPMツールを選ぶとき、見比べるべきは案件一覧の見やすさではない。受注前の採算判断にまで立てるかどうか。問いは、そこにある。
FAQ
PPM SaaSとは何ですか?
PPM SaaS(プロジェクトポートフォリオ管理ツール)とは、社内の複数案件を一つの単位として横断的に可視化し、リソース配分・採算判断・優先順位づけを支援するクラウドサービスです。単一案件の進捗を管理するプロジェクト管理ツールと違い、案件の集合(ポートフォリオ)に対して経営資源をどう配るかを扱います。
PPMツールとプロジェクト管理ツールはどう違いますか?
プロジェクト管理ツールは1案件のタスク・進捗・スケジュールを管理する運用の道具です。PPMツールは複数案件を横断し、どの案件にどれだけ資源を配るか、どの案件を優先するかを判断する経営寄りの道具です。前者は1案件の中を、後者は案件の集合を最適化します。扱う単位が個別案件と案件群で分かれます。
中堅SI・受託開発にPPM SaaSは必要ですか?
案件数が増えて全体の資源配分が属人化し、赤字案件を後から知る状態になっているなら必要です。ただし必要なのは案件一覧の可視化ではなく、限られた人材をどの案件に配ると会社全体の採算が最大になるかの判断機能です。可視化までで止まるPPMツールは、中堅SIの利益課題には届きません。
PPM SaaSを選ぶときに見るべき機能は何ですか?
案件可視化・リソース配分・採算判断・ポートフォリオ意思決定の4層で機能を分け、自社にどこまで要るかを見極めることです。多くのPPMツールは可視化とリソース配分までで、案件ごとの限界利益で配分を判断する採算層が薄いものが多いです。利益を残したいなら採算判断とポートフォリオ意思決定の層を重視します。
PPM SaaSを入れれば案件の利益は増えますか?
可視化や配分の効率化だけでは増えません。案件の利益は、どの案件をいくらでどんな体制で受けるかという受注前の意思決定でほぼ決まるからです。受注済み案件を横断管理しても、安すぎる単価で受けた案件は黒字に戻りません。利益を増やすには、受注前に案件採算を設計する視点がPPMの中核に要ります。
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