コンサルティング

コンサルの採算は、請求書を出す前に削られている

高いレートで受注できた案件ほど、終わってみると利益が薄い。見積りの1.5倍は働いた。スコープ外の依頼も「関係を考えると」と引き受けた。最後の追加分は「これはサービスで」と請求書から落とした。請求額は、当初のままだ。

働いた時間は記録されている。だが、その記録のどこにも、削られた利益は映っていない。

この記事の要点

  • コンサルの採算を決めるのは、受注レート(標準単価)ではなく実現率である。
  • 実現率とは、請求可能額のうち実際に請求・回収できた割合だ。
  • 値引き・スコープ外の無償対応・書き損じ・固定額の工数超過が、請求の手前で限界利益を削る。
  • 稼働率100%でも、実現率が低ければその案件は静かに赤字になる。
  • 実現率は現場の交渉ではなく、受注前のスコープと単価と布陣で決まる。

稼働率100%でも、なぜ赤字になるのか

プロフェッショナルファームの利益を語るとき、稼働率(チャージャビリティ)ばかりが指標になる。だが稼働率は、使える時間のうち何割を案件に充てたかを測るだけだ。その時間が、いくら請求・回収できたかは別の数字が握る。実現率である。

実現率とは、標準単価で計算した請求可能額のうち、実際に請求し回収できた割合だ。 標準単価10万円分の作業をしても、値引きやサービス対応で7万円分しか請求・回収できなければ、実現率は70%。働いた事実は変わらないのに、売上は3割消える。

稼働率と実現率は、別のものを測っている。

  • 稼働率100%・実現率100%なら、働いた時間がすべて売上になる。
  • 稼働率100%・実現率70%なら、フルに働いたのに3割は無償だ。記録の上では「忙しい優良案件」に見える。

差は、稼働率レポートには出ない。レポートは時間が埋まっていることを緑で示し、その時間の3割が回収できていない事実は、どこにも表示しない。

実現率を削る4つの経路

実現率は、請求書を出す前に削られる。経路は4つある。どれも現場の善意か、クライアントへの配慮から始まる。

1. 受注時の値引き

「今回は関係構築だから」「次につながるから」と標準単価を下げて受ける。受注の瞬間に、その案件の実現率の上限が決まる。

2. スコープ外の無償対応

契約範囲を超えた依頼が来る。「これくらいなら」と引き受ける。一回ずつは小さいが、積み上がると見積りの工数を大きく超える。超えた分は、請求されない。

3. 書き損じ(write-off)

請求できるはずの工数を、「関係を悪くしたくない」と請求書から落とす。実際に働いた時間が、回収されないまま消える。最も見えにくく、最も常態化しやすい。

4. 固定額案件の工数超過

固定額・成果報酬の契約では、工数が増えても請求額は変わらない。見積りを超えて働いた分は、まるごと実現率を削る。バリュー型は高採算に見えて、受注前に採算を設計しなければ、超過で溶ける契約形態だ。

4つに共通するのは、いずれも稼働率を一切下げないことだ。フルに働いている。だから稼働率レポートは緑のまま、限界利益だけが静かに削れる。工数管理は使った時間を記録するが、請求できる時間を設計しない。記録そのものの限界は実績管理は利益を生まない。その入力に説明責任はあるかに書いた。

実現率は、受注前に決まる

実現率を現場の交渉力の問題にすると、永久に解けない。値引きを断れ、無償対応を減らせ、書き損じをやめろ——現場はクライアントとの関係を抱えていて、その場では飲むしかない。

実現率が本当に決まるのは、受注前だ。どこまでが固定額の範囲で、どこからが追加請求か。想定される追加対応を、見込んで単価と編成に織り込んであるか。スコープの線を受注前に引いておけば、追加依頼は「別フェーズ」として請求できる。引いていなければ、その場で無償になる。スコープ外の依頼を別案件として独立させる考え方は「何でもやります」が、月額運用の採算を溶かすで扱った。

採算設計とは、この実現率を受注前に設計する行為である。標準単価いくらで、どのスコープを、どの布陣で受けると、値引きと超過を織り込んだあとに限界利益がいくら残るか。それを走り出す前に確かめる。手法はアサインメントデザイン™、それを実装したのが CATCAREERアサインメント だ。受注後に請求書を削る前に、受注前に「実現する利益」を設計する道具である。

誰の工数で価値を作るかというレバレッジの話はシニアが手を動かした瞬間、ファームの利益は消えるに書いた。レバレッジが原価の側を、実現率が売上の側を決める。どちらも、受注前にしか設計できない。

請求書を出す前に、その案件の利益はもう決まっている。決めているのは現場の頑張りではなく、受注前に引いた一本の線だ。

FAQ

実現率(リアライゼーション)とは何ですか?

実現率とは、標準単価で計算した請求可能額のうち、実際に請求し回収できた割合です。標準単価10万円分の作業を、値引きやサービス対応で7万円分しか請求・回収できなければ、実現率は70%です。プロフェッショナルファームの採算は、標準単価ではなくこの実現率で決まります。

稼働率(チャージャビリティ)と実現率はどう違いますか?

稼働率は使える時間のうち何割を案件作業に充てたかを測り、実現率はその作業のうち何割を実際に請求・回収できたかを測ります。稼働率は時間の埋まり具合、実現率は売上への変換効率です。稼働率100%でも実現率が低ければ、働いた時間の多くが無償になり採算は崩れます。

高いレートで受注したのに利益が残らないのはなぜですか?

受注時の標準単価が高くても、実現率が低ければ手元に残る額は小さいからです。値引き、スコープ外の無償対応、請求を見送った書き損じ、固定額案件での工数超過が、請求書を出す前に限界利益を削ります。採算は受注レートではなく、実際に回収できた額で決まります。

コンサルの実現率はなぜ下がるのですか?

主に4つの経路です。受注時の値引き、スコープ外の依頼への無償対応、関係を気にして請求を見送る書き損じ(write-off)、固定額案件で見積りを超えた工数です。どれも現場の善意やクライアント配慮から生まれ、稼働率レポートには損失として表示されないまま採算を削ります。

実現率を上げるにはどうすればよいですか?

受注前にスコープ・単価・布陣を設計することです。どこまでが固定額の範囲で、どこからが追加請求かを受注前に握り、想定される追加対応を見込んだ編成と単価を組みます。実現率は現場の交渉力ではなく、受注前の設計でほぼ決まります。

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